あにまる・ぱにっく!







(ん…)

ガイが目覚めると、何やら全てに違和感があった。
ベッドが広く、天井が高い。

ガイはゆっくりと起きあがってみた。
違和感はますます酷くなるばかりで、首を傾げる。
そうして何と無しに目をやった先には、金色の毛並みがあった。

(な!?)

恐る恐る自分の手らしきものを持ち上げてみる。
しかしやはりそこにあるのは、金色の毛。

「(なんじゃこりゃあー!)」

ガイは叫んだつもりだった。
だが自分が自身で聞いた声は、「にゃー!」という動物の鳴き声だった。

「(どどどどどうしよう)」

ていうかこれ、何?
何の姿?
でも鏡がないから分からない。

ガイは、混乱の極みにいた。
だが持ち前の冷静さで、こうしてはいられない、と思い立つ。
次いで立ち上がろうとしてみるが、体の使い方が全く違うのか上手く立ち上がれない。
奮闘してベッドに立つと、今度は視界が全然違うことに戸惑った。
ベッドの下を覗き込むと、ガイは少し血の気が引いた。
普段なら別に大した高さではない物の、今の何か分からない姿では、戸惑ってしまうくらいには高かった。

気合いを入れて飛び降りて、慣れないながらも扉まで歩く。
とりあえず誰か仲間が気付いてくれないかと、カリカリと爪で扉をひっかいてみる。
すると、その爪の音に気付いたらしい誰かが、扉を開けた。
どうやら鍵が開いていたらしい。
顔を覗かせた人物は宿で働いている人のようで、ガイから見てとてもでかかった。

「何で猫がこんなところに…。入っちゃだめだろ?」
「(えっ、ちょっと、待って…!)」

そう言ってガイは首根っこを捕まれながら、何処かへ連れて行かれてしまう。
人が歩くたびにゆらゆら揺れる視界、高さ。
…怖い。

「(ひー!)」

そんなに長いはずではない廊下は、とてつもなく長く思えた。
宿の扉に着き、漸く下ろされたと思った矢先に、しっしと追い払われ、扉を閉められてしまった。

(戻れねぇ…)

がっくり項垂れるも、こうしていてもしょうがないと思い立ち、ガイは街を歩いてみることにした。
その先で自分でも覗けるような水路を見かけ、一応姿を確認してみることにした。

さっき宿の人は猫だと言っていたが…其処に映っていたのは…やっぱり。

(猫…!)

ガイは頭を抱えたくなったが、慣れない体であるためにそんな動きが出来るわけもなく。

(何でだよ…)

再びがっくりと項垂れながら、昨日何かしたかと思考を巡らせてもさっぱり思い出せなかった。
昨日はアイテム補充等の為に一日この街に留まったのだ。
その間、ジェイドの作った料理は出てないし、それらしき危ない物も全く口にしていない。
意識が無い相手に対して、という選択肢も無くはないが…まさか。

(流石のジェイドも、そこまで鬼じゃないと思うが…)

それよりも、困った。
仲間の元に戻れないし、それよりも元の姿に戻れるかどうかさえ分からない。

(どうしよう…)

流石にガイは落ち込んでしまった。
これからどうしよう、そう思いながらとぼとぼと歩き出した次の瞬間。

ガッ

「(ぐわっ!)」
「おや?」

何かにぶつかり、衝撃が走り、気付いた時にはガイは宙に浮いていた。
直前に聴いた声は何処かで聞き覚えがあるような…。

しかし思い出す前に、ずきずきとした痛みと共に、ガイの意識は暗闇へと沈んでいった。



ジェイドは陛下への報告ついでに軍部での仕事のあと、宿屋へと帰った。
実はまだ仕事が残っていたのだが、あまりにもあまりな量であるためガイにも手伝って貰おうと帰ってきたのだ。
宿屋の前に見慣れた赤い髪を見つけると、その髪の持ち主も此方へ気付いたらしく、小走りに近寄ってきた。

「ジェイド! …その猫何だ?」

じっと腕の中にいる猫を見ながら、ルークは訝しそうに尋ねてくる。
どうやらこの組み合わせが不自然に思えているらしく、それは思い切り顔に表れていた。

「ああ、ここに来る途中で蹴り飛ばしてしまいましてね」
「蹴っ…て、可哀相なことするなよ…」
「私の所為じゃありませんよ。いきなり飛び出してきたこの猫が悪いんです」
「なんだそりゃ。…はぁ…まーいいけどさ。一体どうすんだよ、その猫」
「気絶させてしまいましたし、流石に放ってはおけませんでしたからねぇ…一応、少しの間だけ面倒見ますよ」
「うん、その方がいいかもな」

ミュウは兎も角、猫は流石に宿の主人に見つかったら拙いだろう。
そう思い、見つからないように確認しながら、二人はそれぞれの自室へと戻っていった。

「金色の毛並み…」

ジェイドはこの猫に何処か引っかかるものを感じていた。
そう言えば朝からガイの姿が見あたらない、彼はどこにいるのだろうか。

「にぅ…」
「おや、目が覚めましたか?」
「…!(ジェ、ジェイド!? 俺、…? 何で俺をジェイドが?)」
「少し待っていてください。今ちょっと看ますから」
「(み、みるって何を!?)」
「ふむ。一応、何とも無さそうですね」

さっきぶつかったのはジェイドだったのだろうか。
探るようにガイの体を確認し、何もなかったのだろう、ぼさぼさになった毛を直していく。
その撫でてくる手の感触が気持ちよく、ガイは目を瞑った。

「それにしても、困りましたねぇ…。ガイにも溜まった仕事を手伝って貰おうと戻って来たんですが」
「!」

そんなジェイドの言葉にこんなことをしている場合ではないと思い出し、自分は此処にいると訴えようとしても、
相変わらずガイの口から出てくるのは猫の鳴き声だけだった。

「仕方ありません。とりあえず気付きましたし、お前ももう帰りなさい。外まではちゃんと連れ出してあげますから」
「(っ、ちょ、ちょっと待ってくれ! このままなんて嫌だ! どうすれば…)」

もし此処でジェイドに気付かれなかったら、一生このままなのではないかという恐ろしい想像にガイは体が震えた。

「…?」

先程看た時には気付かなかったが、ジェイドは猫の首に何かが掛かっているのを発見した。
それはよく見てみると、ガイと同じチョーカーのようだ。
ジェイドはそれを不思議に思った。

「お前は…ガイ、」
「(…!)」

ジェイドの口から出た言葉に、ガイの耳が動く。
バッと彼を見上げれば、赤い目がこちらをじっと見ている。
もしかして、気付いてくれたのだろうか。
そんな期待を胸に次の言葉を待つ、と。

「な訳ありませんよねー」
「(そんなぁ…)」

あっはっは、と笑うジェイドにガイは泣きたくなったが、猫の体では勝手が違う為に泣くことは出来ない。
そこに、扉を叩く音がした。

「どうぞ」

開かれた扉の先には、ルークとミュウが居た。

「なぁジェイド、もうそろそろ夕飯の時間なんだけどさ…ガイがまだ戻ってないみたいなんだ」
「おや。どうしたんでしょうねぇ…。朝から姿を見かけませんし」
「うん…。ガイ、何処行っちまったんだろ」

これだ、とガイはジェイドの膝の上からジャンプし、咄嗟にルークへと飛びついた。
そんなガイを慌ててキャッチし、ルークは抱き抱えた。

「おわっと! さっきの猫? 怪我はなかったのか、ジェイド?」
「ああ…一応何もありませんでした。ですので、帰そうかと思っていたところだったんですよ」
「そっか」
「(そんなの嫌だ! 俺だよ、ルーク! 気付いてくれ、頼む!)」

拒否するように叫ぶと、近くにいたミュウが猫の鳴き声に反応する。

「みゅ? ガイさんの声がしますの…」
「何言ってんだよ、ミュウ。ガイなんて何処にもいねーじゃん」

きょろきょろとルークは辺りを見回すが、何処にも彼の姿はない。
しかし聖獣は、ぴょんぴょんと飛び跳ねながらルークに訴える。

「でも聞こえましたですの!」
「はぁ?」
「その猫さんからですの。ご主人様の名前を呼んでるですの。気付いてくれって言ってるですの!」
「気付いてくれって…」
「まさか…」
「ガイ、なのか?」

ジェイドは眉を顰めながら、ルークは恐る恐るといった感じで、腕に収まっている猫を見つめた。
それに応えるように、猫は鳴く。

「(そうだよ! 何でか分からないけど、こんな姿になっちまってたんだ!)」
「みゅぅ…」
「ミュウ、何て?」
「そうだって言ってるですの。何でか分からないけど、こんな姿になってたそうですの」
「ほお…。それはそれは」

ガイの通訳をしたミュウの言葉に、楽しそうに笑いながらジェイドは頷いた。
そんなジェイドを、胡乱気な目で見るルーク。

「んー…。仮に、本当にこの猫がガイだとしてさぁ」
「(本当だって!)」
「これって、ジェイドの仕業なのか?」
「嫌ですねー。最近野宿続きで、私がそんなことをする暇など無かったというのは知っているでしょう?」
「確かにそうだけどさぁ…。なんつーか…」

訝しげな顔をしてジェイドを見つめるルークに、にやりと笑う。

「…何か?」
「い、いや!何でも!」

眼鏡のブリッジを押し上げながら低い声で問うジェイドに、ルークは慌てて首を振る。
あまり言うと、自分もこうされかねないと判断したため、ルークはそれ以上何も言わなかった。
賢明な判断であろう。

「で、問題は…。この猫が仮にガイだとして」
「(だから本当だっての!)」

仮に、という部分に力を入れて言うジェイド。
そのたびに鳴くガイの反応を見て楽しんでいるようだった。

「どうやって元に戻すかですね」
「確かに…」

二人は件の猫を見ながら、唸った。
次いで、ルークがあっと声を上げる。

「ナタリアにリカバーを掛けて貰うとか!」
「それも一つの手でしょうが、どうしてこうなったのかが分からないと、効くかどうか分かりませんよ?」
「それもそうだなぁ…。さっき、何でこうなったのか分からないって言ってたみたいだしな」
「ガイ、思い出してみて貰えませんか? 昨日のことだけでなく、2、3日前のことも一緒に」
(昨日から2、3日前までか…)



 グランコクマへは、物資の調達に立ち寄ることになった。
 乗ってきた乗り物はアルビオール。
 その時はもう少しで夜という微妙な時間だったが、いきなり港に入るのは拙いだろうと判断。
 ノエルに頼み近くで下ろして貰ったのだ。

 もう少しでグランコクマだ、そう全員が思ったかどうかは分からないが、少なくとも街が見えた時だ。
 モンスターの群が襲ってきた。
 幸いにも自分たちのレベルは高く、体力はそれなりに余っていた。
 難なく倒していくも、如何せん数が多く視界も悪かった。
 混戦になり数えるのも億劫なほどに倒した頃。

 『っ!』

 周りに気を配りながら戦っていたためか、自分は疎かになっていたらしい。
 モンスターに背後から近寄られ、攻撃されたところを寸前で避ける。
 息を吐き出しながら、叩き切ったところ、丁度敵の体液を顔面から浴びてしまった。
 何とか目には入らずに済んだものの、口の中に入ってしまい、勢いで飲み込んでしまったのだ。



「ふむ…。ということは、一応リカバーを試す価値はありますね」
「そうだな。じゃあ、善は急げだ。行こうぜ」


女性陣の部屋を訪ね、ルークは腕の中にいる猫を見せながら、掻い摘んで事情を話した。
それに対して直ぐに否定を示したのは、アニスだった。
ルークの腕の中にいる猫に興味津々、といった顔で覗き込んでいる。

「えー!? それがガイー!?」
「アニス。あまり大きな声を出しては、他の部屋に泊まっているお客様に迷惑よ」
「ごめーん。でもぉ、あんまり信じらんないですよ〜」
「まぁ、確かに。ですが、魔物の体液にはどんな物が入っているか分かりませんし」
「それはどういう意味ですの?」

物騒な発言に、ナタリアは不思議そうな顔をしながらジェイドに尋ねた。
眼鏡のブリッジを押し上げながら、ジェイドはため息をついた。

「魔物にはまだまだ未知な部分が多いですからね。
 多分これは、ガイの音素や元素が魔物の体液に何らかの反応を示した結果でしょう。
 そうするともしかしたら、ガイが魔物になっていた可能性も考えられます」
「ま、マジかよ…」
「病気と似たような要領ですよ。異物を追い出そうと抗体が働くんです。
 今現在、それと同じ状態なんじゃないでしょうか」
「まぁ…」
「(……)」
「ガイの自業自得ですね、こればっかりは」

やれやれ、と両腕を上げながら呆れた顔をしたジェイドに対し、ルークは落ち込んだように肩を落とした。

「いや、あんときガイはすげー頑張ってたよ。俺がもうちょっと立ち回れていればよかったんだ…。ごめんな、ガイ」
「(違う、ルークの所為じゃない。俺がドジったから…)」
「…ガイの台詞が『にゃあ〜』でも、なんとなーく想像出来ちゃうんですけど」
「…そうね」
「はいはい、そうですねー。それで、ナタリア?」
「何ですの?」
「リカバーをガイに掛けてみてくれませんか?」
「大佐ぁ、何でですか?」
「一応、状態異常の内に含まれるのではないかと思いましてね」
「なるほど…」
「分かりましたわ。ガイ、よろしくて?」
「(ああ)」

ガイを腕に抱いたまま、ルークがナタリアへと近づく。
ナタリアは、すぅ…と小さく息を吸い込み、呪文を唱え始めた。
だがしかし、ガイの体は全く何も起こらなかった。

「…戻らないね」
「ふむ」
「ガイ…私の力が及ばずに」
「ナタリア、気にしないの! 元はと言えば、ドジったガイが悪いんだから!」
「(言葉もありません…)」
「困ったなぁ。他に何か手だてがあればいいんだけど」
「一応明日、軍本部に行って文献でもあたってみましょうか」
「頼めるか、ジェイド?」
「仕方ありませんからね。ガイがいなくなると、私も楽が出来なくなりますから」
「「「「……」」」」 「(…)」

ジェイドの台詞に、一行は沈黙をせざるを得なかった。

「(全く心配されてない俺って…)」

ガイはがっくりと落ち込んでしまった。


「で、それよりー…」

アニスはルークへとにじにじと近寄る。
同じだけルークは後ろへと下がり、アニスを見た。

「な、何だよ、アニス」
「触らせてー!」
「へ?」
「野良猫とかって、どんなとこ歩いてるか分からないからちょっと触りにくいけど、ガイなら平気かなーと思って」
「わ、私も…いいかしら」
「私も触りたいですわ!」

アニスの言葉に賛成するかのように、ティアやナタリアも近寄ってきた。
ガイはその様に慌ててしまい、逃げようとするもルークにがっちりと抱えられてしまった。

「(え、え、ちょっ…)」
「ねぇ、いいでしょー?」
「俺は別に構わねぇけど?」

な、とガイを見るルークの顔は、にやにやと笑っていた。
その様にガイは内心青くなる。
逃げたい、しかしルークに抱えられ女性陣に周りを囲まれ、逃げられない。

「(平気じゃない!平気じゃない!俺は構ううぅぅ!!)」
「平気そうですよー?」
「(ジェイド、お前ー!)」

嫌だと藻掻くが力が上手く入らず、ただガタガタとガイは震えるしか出来なかった。
そして、ジェイドのトドメの台詞に、女性陣が一斉に…。

「んじゃ、ペタペタいっきまーす!」



「ぎにゃあああああああああ!!!!!」



火事場の馬鹿力と同じような物だろうか。
無理矢理ルークの腕をふりほどいて、ガイは一目散に逃げ出した。

「逃げましたわ!」
「まーてー!」





その後、文献をあたってみたものの結局何も見つからず仕舞い。
その間ガイはパーティーメンバー全員にからかわれまくったのだった。

三日後に元の姿に戻った時は、女性陣と密かにルークの残念がっている姿があった。
そして、戻ったことに心から安堵して、本気泣きしていたらしいガイの姿も見られたとか。








   おわり。

猫になったガイを蹴り飛ばすジェイドとぺたぺたが書きたかったんです…。
展開…、かなり早いしorz

題名が他の方と被ってませんように。

  2006/10/9(10/10 修正)  春樹