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また一つ、拾い上げた物に名前を付けて 女性が好きだと彼は口にするが、彼は女性恐怖症だという矛盾を抱えている。 女性恐怖症の原因は、ダアトで彼が自らの奥底に封じていた過去を語ってくれた時に判明した。 その時、再びショック状態には陥らなかったことに安堵はした、けれど。 (その相反する態度の裏にある物は) 庇われたという。 彼の姉、屋敷のメイド達。 気付いた時には周りは血塗れ、冷たくなったもう動かない体。 視界はさぞかし紅かったろう。 女性に優しいのも、女性が好きだというのも、その記憶から来ているのではないだろうか。 守られ、生き延びた。 けれど、自分は何一つ守れなかったという心から。 だからこそ、守りたい、深層心理ではそんな風に思っているのではないか。 だが、こんなものは憶測に過ぎない。 自分は彼ではないから、考えても意味などない、得る物もない。 彼にこれを告げるつもりも更々無い。 優しげに、この腐れ縁ともいえるパーティメンバーと笑っている、目の前の彼を見やる。 先程のことをおくびにも出さず、何もなかったかのように振る舞っている。 少しでも誰かがあの事を気にすれば、彼は困った顔をして笑うのだろう。 そして、気にしないでくれと言うのだろう。 何時までも気にされていては困る、それもある。 しかし彼の場合はそんなことよりも、誰かが暗い顔をしているのを見ていられないという方が強い。 彼が原因でそうなってしまったときは、彼自身がそういう顔をさせてしまったと気に病む。 記憶を思い出したことによって、再び深い傷を負ったであろうに。 全て笑って、憎んできた相手に素性を悟られまいと長年に渡って染みつけたのだろう笑みで、誤魔化してしまうのだ。 (少しは、誰かに頼れば、楽になれるだろうに) 彼はそれが出来ない。 頼ることを、知らないのではないかと思うほどに。 頼ることよりも、頼られることが常だ。 (そんな彼を、甘やかしてみたいと思うこれは…一体何なのでしょうねぇ) ふ、と視線をずらすと、歩みを緩め後ろを歩いていた自分に、彼が近づいてくる。 「旦那」 「何でしょう」 呼ばれ、ちらりと横目で見ながら答えてやれば、横に並んだ彼は困ったように頭を掻いた。 「いや…特に、何があるって訳じゃないんだが」 「そうですか」 それきり沈黙が落ちる。 別段話すこともなく、じ、と前をゆく四人を見た。 何事かを話し、笑っている。 そんな彼らを見ながら私は、隣にしか聞こえないように、言葉を漏らした。 「…疲れた時は、疲れたと言っていいんですよ。確かにこのメンバーは年下が多い、ですが」 いきなり何を言い出すのか、そう言いたげな、不思議そうな視線を感じた。 だが、そちらを見ずに言葉を続ける。 「私は、貴方より年上ですし、大人です。頼ってくれて良いんですよ?」 「…ジェイド?」 「戦闘の時も、普段も。頑張っている貴方が一時疲れたと立ち止まっても、きっと誰も咎めないでしょうから。 休むことも立ち止まることも、決して悪いことではありません。もちろん、誰かに頼ることも。 皆が貴方に頼っている分、貴方も皆に、頼ればいい。違いますか?」 言い終わり視線をやると、彼は驚いた顔をしていた。 次いで言葉を探すように、視線をあちらこちらへと動かす。 「……。俺は十分、みんなに頼ってるよ」 「本当に?」 「…。…頼るって、何だろうな。簡単なことなのか、それとも、難しいことなのか。 今の俺には判断が付かないんだ」 彼の言葉を促すように、声は出さずに頷くことで相づちを打つ。 「…話は変わるが、俺はこうしてみんなで居ることで、生きているって実感できるんだ」 「……」 「普段、誰かと一緒にいる時、音機関をいじってる時と…不謹慎だが、戦う事でも。そうしていることで、生きてると実感してる」 彼は手のひらを胸の前まで持ち上げると、グッと力を込めて握った。 「でもやっぱり、時折立ち止まりたくなることはある。立ち止まって、少し休んで、そうして今度は考えてしまう。 俺は今、何処に居るんだろうと。そう考えることで、休めなくなる時もある」 彼は立ち止まり、空を振り仰ぐ。 自分も同じように止まると、彼の視線の先を追うように、空を見上げた。 彼の目と同じ色の空、天頂の青。 「けど、みんなの存在が、俺が今何処にいるか教えてくれる。今歩いている道を明るくしてくれていることに気付く。 ほっとするよ、みんなと居ると。時々騒がしくて、偶に疲れることもあるけど、それは全然嫌な事じゃない。 楽しくて…安心する。…これって、頼っていることには、ならないか?」 次いで此方を見てくるその視線に、目を合わせる。 少なくとも嘘は含まれていないようだった。 澄んだ青に真っ直ぐ見つめられ、その光の強さに、少し眩しさを感じた。 自分の考えていたことが、杞憂だったのかは分からない。 さっきの言葉通りだ、自分は彼ではない。 光の強さに迷いは見えない、だが、それが強がりだったとしたら。 それとも、強がっていることに、彼自身が気付いていないのか。 本当にそうだとしたら、それに気づけない自分は、まだまだなのかもしれない。 或いはもしかしたら、彼が己の気持ちを隠すのが上手いのかもしれない。 答えは出て来るはずもなく、思考は堂々巡りだ。 結局人間の心理は、他人には計れない。 彼の言葉を信じるべきなのか、…否か。 後は己に掛かっている。 そうして再び、彼を甘やかしたい、そう思った。 先程の彼への問いは、自分の本当の問いではない。 本当は、もっと、───。 …だが今は、此処までにしておこう。 いろいろと楽しみは、後に取っておくのがいい。 急いでも、良い答えは出ないだろう。 「…そうですね。まぁ、悪くはないでしょう」 笑って、目を伏せた。 「ガイ、これからたっぷり付き合って頂きますよ」 「は? 何に」 「思いっきり、甘えさせて差し上げますよ。私に」 「え、今、悪くないって…。つーか、甘えるって? 俺が? …ジェイドに?」 「悪くない、とは言いましたが、良いとは言っていませんからねぇ」 「何だそれ」 訳わかんねぇ、と訝しげな顔をするガイに、満面の笑みをくれてやる。 「いやぁ、面白くなりそうですねぇ」 「…嫌な予感しかしないんだが」 「私は良い予感がしますよー?」 己の笑みを見て顰め面をした彼に、声を立てて笑った。 その笑い声に反応したかは分からないが、自分らを呼ぶ声が聞こえた。 そちらに目をやると、立ち止まって話していた自分たちを、前を行っていた仲間が待っていた。 遅い、何をしてるんだ、そんな彼らの言葉に笑いながら謝る彼。 その姿を見て、小さく自分も笑った。 彼らと共にいることで、生きていると実感できる、そう言った彼に少しだけ同意する。 騒がしさも、慌ただしさも、静かな時も。 怒りも、悲しみも、楽しさも、嬉しさも、全てこの旅でたくさん拾って、捨ててきた。 今まで生きてきた時間よりも、拾って捨てた物は数多いのかもしれない。 それもまた、悪くないと思える。 何より、この隣にいる彼によって、拾った新しい物がたくさんある。 それを少しずつ、紐解いて。 理解して、彼と共有できたら。 end …あ、甘くなりましたか? 2006/9/20 春樹 |