近くで鳥の鳴く声がする。
朝から悪くないBGM。
しかし、それに混じって別の音が耳に届いた。
空気を斬る音、一度ではなく、二度三度、…それ以上の回数で。

ジェイドはゆっくり起きあがりベッドから降りると、カーテンを開いた。
シャッという音が部屋に響き、窓からは日が差し込んでくる。
急な眩しさに目が痛んだが、それも直に慣れた。

一度背後を振り返り、先程まで寝ていたベッドを見やる。
何も感触がないと思ってはいた。
事実、隣で共に寝ていた人はいない。
やれやれ、と少しだけ肩をすくめると自らも身支度を始めるべく、まずは洗面台へと向かった。


目が覚めるほど真っ青な軍服に袖を通し、最後に眼鏡を掛ける。
そこで漸く時間を確認すると、朝食には大分早かった。
そして、ジェイドは光の差し込む窓辺へと近づき、鍵を開けると窓を大きく開けた。

「ガイ」

周りに迷惑にならない程度に、しかし、呼びかける相手には聞こえるような大きさで。
呼ばれた本人はジェイドの声に反応し、そちらへと振り向いた。

「旦那」
「朝から精が出ますねぇ」

さくさくと芝生を踏み鳴らしながら、ガイは窓辺に腕をかけてにこりと笑う男へと近づく。
そんなジェイドに、ガイもまた同じように笑い返した。

「ああ、早くに目が覚めちまったんだが…天気良いから、体動かすのも悪くないかなってさ」

言いながら、ガイは手にしていた剣を肩の高さまで持ち上げた。
鳥の声に混じっていた別の音、それは、ガイが剣を振る音だった。

「…それに、最近は凄く調子が良いし」

剣を下ろすと同時に、ぽつりと彼の口から零れた言葉。
音としてはとても小さく、ガイもジェイドに聞こえるように言ったのではないだろう。
しかし、そんな音でもジェイドははっきりと聞き取った。

ガイに気付かれないように、ジェイドは部屋の中へと視線をやった。

部屋にはベッドが二つあるが、一つは全く使われた様子がない。
この間のことがあってから、時折二人で使っている。
ガイがあれからきちんと眠れているかどうか心配していたのだが、どうやらその必要はなかったらしい。
良かった、とジェイドは内心で安堵の息をついた。

そうして青年の零した言葉については特に言及せず、ガイをからかってみることにした。

「こんなところで剣を振り回していては、危ない人と勘違いされてしまうのでは?」
「あのなぁ…ちゃんと、宿の主人には許可を頂いたよ」

苦笑と共に返される。
それに対し、ジェイドは小さな笑みを浮かべた。

「そうですか?」
「ああ。…ただからかい半分に、その剣で草木の手入れもしてくれると嬉しい、なんて言われたが」
「…ほお」

ちらりと視線をガイから外すと、先程ガイが立っていた位置近くや草木の周辺には、
こんもりとまではいかずとも、小さな緑色の山が出来上がっている。
ジェイドが見た先に気付いたのか、ガイは更に苦笑を深くした。

「別に、剣でやったわけじゃないけどな」
「それはそうでしょうとも。ご丁寧にはさみまで用意されたようですしね」
「う…」

刈り取られた葉の側に、はさみが置いてある。
人の良い彼のことだ、じゃあやっておきますよ、等と笑いながら引き受けたに違いない。
それがガイの良いところでもあるのだが。

「朝から疲れてしまっては、休んだ意味もなくなってしまうでしょう?」
「いや、そんな重労働でもなかった。準備運動には丁度良かったよ。
 それにペールの手伝いしてたことがあるから慣れてるし、それなりにこういうのも楽しいぜ」

言ってガイは快活に笑う。
どうやら、本当に調子がいいらしい。

そうですか、と言って姿勢を正すと、彼に背を向けた。

「もう少ししたら朝食の時間ですし、適当に部屋に戻ってきてくださいね」
「ああ」

返事を聞いてジェイドは、踵を返して奥へ戻ろうとした。

「ジェイド」

すると声を掛けられて、再び振り返った。
何だろうかと青年を見やれば、少し照れたように頭を掻いていた。

「まだ、言ってなかったからさ」
「何をです?」

尋ね返せば、ガイはとびきりの笑顔を浮かべて。

「おはよう」

そう言った。
一瞬、何だ、と疑問に思ってしまったが、そう言えばまだ挨拶をしていなかったと思い出した。

浮かべた笑顔が太陽の光と相俟って、眩しくて、ジェイドは少し目を竦める。
次いでそのまま目を閉じると、ふ、と同じように笑みを浮かべながら。

「おはようございます」

と返した。




    おはようと言える、当たり前が








  end




  2007/2/23  春樹