初めてだった。

 彼が目を覚ます前に、自分が目を覚ましたことが、だ。
 彼は常に、自分よりも遅く寝て早く起きる。
 旅を初めて共にした頃から、ずっと気になっていたことだった。



 彼、ガイが寝るのは、大抵夜中の0時を回るよりも遅いようだ。
 何時寝ているかなどは知らない。
 必ず、私が眠りについてから寝ているようだから。

 同室になると、時折遅く寝ることについて釘を刺す。
 睡眠不足などで、旅に支障を来されては困るからだ。
 けれど、彼は苦笑をするだけで、何も言わない。

 それを見て、眠れないのだろうかと考えたが、自分はガイではないから考えても仕方がない。
 そう思い私は小さくため息をつき、彼よりも先に眠りについた。
 きっとガイは、私のついたため息に気付いていただろうが、それでも眠ろうとはしていなかった。
 椅子に腰掛け、手にしていた音機関を、小さな音を立てながらいじっていただけだった。


 次に気になったのは、私が目を覚ます頃には既に起きていることだった。
 彼が使用人だったという立場を考えれば、確かにそれは当たり前なのかもしれない。
 仕事が毎日忙しければ、寝るのが遅くなる事はもちろん、早起きしなくてはならないことも多々あるだろう。
 しかし、それにしても早過ぎはしないかと思っていたのだ。

 自らも軍人である。
 朝早くからの仕事、出なければならない早朝訓練も少なからずある。
 だがガイは、そんな自分よりも早くに目を覚まし、それなりに支度を終えていることもあった。
 気配に聡い私が、そんな彼の動く気配に気付かないなんて。
 いや、それよりも。

 一体ガイは、いつ寝て、そしていつ目覚めているのだろう。



 朝、ふっと目が覚めてサイドボードにある時計を見やれば、短針は6時少し前を指していた。
 どうにも微妙な時間だ。
 再び眠りにつくにしても遅く、かといって出発時間まではまだそれなりに時間がある。
 仕方なくゆっくりと体を起こせば、腕に何かが当たった。
 何だろう、ふと視線を下げると、金色の髪があった。

 彼を見て、そうだ、と昨日─正確には今日の夜中─の出来事を思い出す。

 夜中に目が覚め、たまたま隣のベッドを見ればそこは蛻の殻で。
 サイドボードにある明かりを付け、少し待ってみたところ、扉が開いた。
 彼の方を見やると、起こしたのかと此方を気にしてきた。

 起きたとか起きないとか、そんなことはどうでも良かった。
 見たところ、ランプの小さい明かりでも分かるくらいに、ガイの顔色は良くないようだった。
 だから、引っ掛けて、無理矢理自分のベッドへと迎え入れたのだ。

 此方が先に目を瞑ってしまったから、いつ彼が眠ったのかは分からないが。
 彼が自身のベッドに入るのを止めたときに、触れた手。
 私のベッドに引き入れ抱きしめた時に、触れた体。
 それらは驚くほどに冷たかったが、その後徐々に温かさを取り戻していったのには気付いた。

 (やはり、眠れていなかったのだろうか)

 ぽつりと、思考の海に言葉を落とした。
 彼の顔を見やれば、あの時よりはかなり血色が良いようで。
 良かった、そう安堵している自分がいた。

 彼に布団をかけ直してやり、まじまじと寝顔を観察してみる。
 普段の彼は酷く大人びている。
 実際成人の儀を既に終えているが、この幼い寝顔を見れば、やはり彼もまだ子供なのだと思ってしまう。

 自分の年齢から考えれば、パーティメンバーの誰もが子供になる。
 けれど、彼はそんな次元では計れない。

 早くに大人にならざるを得なかった子供。
 精一杯背伸びをし続け、何時しか、そのまま其処まで辿り着いてしまった子供。
 振り返った頃にはもうその場所には戻れなく、また、戻る場所は存在しない。
 それは自分の責も含まれるのだが…、彼に戻る場所があったとしても、戻る気はないだろう。

 子供時代をあまり知らないのは、自分と似ているかもしれない。
 だが、状況はあまりにも違いすぎた。

 (甘えることを知らない。いや、甘えられる他人がいなかった。居たとしても自分がそれを許さなかっただろう)

 手を伸ばし、ゆっくりとガイの金の髪を撫ぜる。
 さらさらと指から零れ落ちるそれは、触り心地が良かった。

 「ぅ…ん、」

 触れた所為かガイがうめくが、目覚める様子は無かった。
 それを良いことに何度かそのまま髪をなで続けていると、すり、と手に擦り寄られた。
 ぴた、と撫でていた手が止まってしまう。

 彼はまだ目覚めない。
 もしかしたら、擦り寄られたという表現は違ったのかもしれない。
 少し動いただけだ、と自分の中で結論づけた。

 (それにしても…、随分可愛らしい寝顔ですね)

 思わず笑みが零れてしまう。
 ガイの頭に置いたままの手を動かし、再び彼の髪の感触を楽しんだ。

 しっかりしているようで、その実危なっかしいところがあるガイ。
 目が離せない、彼に構いたくなる。
 今こうして触れているのも…、それと同じ事なのか。

 進んで他人に立ち入ろうという真似など、昔の自分なら考えられなかったのだが。
 今、自分はこの状況を楽しんでいる。

 (目を覚ました時、どんな反応を見せてくれるんでしょうかねぇ)

 慌てるだろうか、固まるだろうか、離れようと藻掻くだろうか。

 その姿を想像して、楽しみです、と小さく呟いて体を傾げると、ちゅ、と頬と瞼に。
 次いで、額にかかっている髪を退け、同じように。


 そして最後に、唇を、軽く塞いだ。


 (ゆっくり、ゆっくりと)


   ───愛しき金色に








  end

ガイの方がジェイドより寝るのが遅くて起きるのが早かったら萌えるなと思った文章でした。


  2006/12/13  春樹